アメリカ合衆国 ・ナカメグロ州「SUNDAYS BEST」

またソファで寝てしまった。ここ最近、仕事から帰宅してリビングのソファに座ってTVを付け、夕飯後の煙草を1本吸って、iPhoneをポチポチといじっているといつのまにか眠りに落ちて朝の8時20分くらいに目が覚める。そんな生活を1週間続けていたもんだから喉はガラガラ、鼻水も出るわ出るわ…。女に目覚めた思春期の少年達と競えるであろうティッシュの消費量だ。それはさておき、とりあえず音楽をかけよう。


重い腰を上げ、両手を広げて凝り固まった体を伸ばしながらシャワーを浴びに風呂場へ向かった。熱いともぬるいとも言えない絶妙な温度のお湯を浴びながら「今日は隣の州に行ってあの人にどんな話を聞こうか?」なんて考えたものの、頭の中にある残り少ないリーガルパッドには何もリストアップされなかった。

タイで買った300円のシャツを羽織り、カメラを詰め込んだ無駄に大きいバックパックを背負って家を出て、スキッドのやり過ぎで今にもパンクしそうなチャリに乗って走りだす。「そういや今年は花見してないな〜、目黒川でも横切ってみるか」なんて考えながら246から目黒川沿いの側道に舵を切った。

前日の雨で散りまくっている桜をタイヤで拾いつつ、15分程で目的地に到着。そう、ここはアメリカ合衆国ナカメグロ州にあるSUNDAYS BESTというショップ。併設している25LAS BYCYCLE WORKSは大体、午後2時オープンだから開いているわけがない。

店の前ではオーナーの“Yok(ヨック)”の愛称で呼ばれている横瀬裕貴氏が日光浴をしながら煙草の煙を上げて待っていた。「おはよ〜! いい天気で気持ちがいいね〜」なんて言いながらワッツアップを済ませて僕も煙草に火を付けた。

店内から流れるアロハなBGMが心地いい。2014年前の4月25日にオープンしたから2年弱といったところだろうか。「店内の感じとか2年目感無いですよね」と聞くと「そうだねー、大分仕上がってるよね。同じテナントを共有している自転車屋の25LAS BICYCLE WORKSのスペースなんか50年くらいやってんじゃないかっていう雰囲気出てる。笑」

「元々、ここの物件は肉の冷蔵庫が沢山置いてあったんだよね。俺と同い歳の36年モノだから最初は汚かった。内装に関してはダイナーみたいなイメージかな。スケートランプを作ってるリョウタに仕切りの壁を作ってもらったり、壁のココ腰板っていうんだけど、これをダイナーみたいな高さにしたり。商品がまだ入ってない状態の時は白と水色で牛乳屋さんかと思ったよ。 結局棚とか置いたから全然見えないんだけど。笑」


何故この場所を選んだのだろう? 目黒川はそこまで栄えてないのに。

「ナカメはずっと住んでたこともあるんだけど、雰囲気がいいじゃん?色々物件を見てて、ナカメの盛り上がってる側はやっぱり家賃が高くて。たまたま見つけたここが安くて駅からも歩けるし裏通りで人通りが少なくて良いなって。ドアが2つあって2軒っぽくなるっていう理由で25LAS BICYCLE WORKSのニコちゃんとやろうかって」

友達のブランド以外は基本的にはアメリカ縛りで統一されていて、いわゆるアメリカのスーパーとかホームセンターで売っている様な、現地人にとっては至って普通な物が店内に並んでいる。アメリカから遊びに来た人が「あっ、地元で売ってるやつだ!」ってテンションが上がったりもするくらい。

SUNDAYS BESTがオリジナルで展開しているアイテムを手にしてみた。どうやらデザインは全てYokさんが手がけているらしい。昔はバンドのフライヤーを描いたり、ノリで作ったTシャツを知り合いのお店に置いて売ったりと独学でやってきたみたいだ。

「サンプリングのネタも基本アメリカ。食べ物ってアメリカを感じるよね」

アメリカ西海岸のオーガニックスーパーTRADER JOE’Sをサンプリングしたデザインのアイテムや、トートバッグのパッケージがアルミホイルで包まれたブリトー風だったり、HanesのサンプリングでTacosって書いてみたり、フードに関連したデザインが多いのもうなずける。

「ブリトーは変わらず好きだし、最近だとマカロニ&チーズが凄い好きだね〜。中目黒のバーでHATOS BARって店があるんだけど、そこで出してるのがめちゃくちゃ美味しくてね。あ、そういえば昨日も食べたな。お土産で貰ったTRADER JOE’Sのマック&チーズの上にチーズを乗っけてバーナーで炙るとカリカリして美味しいんだよね〜。最近嫁さんも作ってくれるようになって嬉しいんですよ。買い付けでもタコスを入れるケースとかも買ってきちゃうね。カリフォルニアで一番美味しいハンバーガー屋IN-N-OUT BURGERの展開する商品も好きだね。謎なものを沢山作ってて、商品量が多いから行くと楽しいんだよね。実際格好悪いんだけど、そろそろ似合う歳になってきたかなと思って」

なるほど、この人はアメリカンメキシカン、いわゆるテックス・メックスが好きなんだ。

オープンした当時からSUNDAYS BESTという店名を付けた理由を聞いてみたかった。良い機会だから聞いてみよう。

「もう解散してるけど、カリフォルニアのSUNDAYS BESTってバンドが好きで、店を始める時に響きが良いなって思って。だからたまに店の名前にひっかかって来る人も居るよ」

ほうほう、あまりメジャーではないけど俺も知ってるバンドだ。まさかここから取ってきているとは思わなかった。と思っていたらYokさんが裏話を続けて話してくれた。

「オープニングに来てたフォトグラファーがバンドのメンバーと繋いでくれたんだよね。QUIET LIFEのAndy Mullerが元々Ohio Girlっていう名前でバンドのジャケを作ってたんだけど、バンドのSUNDAYS BESTと仲が良くて、本人から『使ってくれてありがとう!Tシャツ送って!』ってメッセージが来たんだよね。俺もすごく嬉しかったからTシャツをいっぱい送ってあげて。『代わりにレアなレコードとか昔のテープ送るよ!』って返信があったんだけど、2年経っても全然送ってこない。笑 」

「試着室の絵も良いですよね〜!」

「展示があって来日してたRUSS POPE(ラス・ポープ)が店にふらっと寄って買い物してくれて、別のタイミングで会った時に皆デッキに描いてもらったりしてたから、俺も店に描いてほしいって言ったら本当に来てくれて。試着室の壁にでっかく描いてくれたんだよね。すごく嬉しかった」

「そういえば、ここにあるTHE THURSDAYMANってブランドってRUSS POPEがはじめたんですよね? 曜日繋がりじゃないですけど、SUNDAYS BESTに影響受けてませんか?」

「うちに遊びに来た後に始めたからSUNDAYSBESTの影響下にあるんじゃないかな?とか勝手に思ってるよ。笑 このグラフィックの少年が着てるTシャツが格好良いんだよね〜。商品化したい」

棚の上に何気なく置いてあるシリアルの箱も、冷蔵庫の上にブラウン管のTVと一緒に置いてあるのを映画で観たことがある。こういうさりげないところもアメリカを感じる理由かもしれない。

「あとは去年の12月から週2で働き出したヤマちゃんかな。ZOMBIE CHANGって名義で音楽やってて、店にいる時は何やってもいいよって言ってあるから、店の中でキーボード置いて曲作ったりしてるよ。今月は結構ライブするみたい」

「これといって何か話すことはないけど、遊びだよね。皆に楽しんでもらえたら嬉しいかな。アメリカが好きだったら楽しんでもらえるんじゃないかな。考え過ぎているよりかは考えてない方が居心地がいいよね。おしつけがましくない方がいい。それこそさっきのバンドの話とか、ハードコアとかパンクとかは偏ってるから好き嫌いが激しくてアピールしてもしょうがないし、自分こういうの好きなんすよ〜。ってぐらいが丁度いいかなと。分かる人はテンション上がるしね。俺今まともな事言ったかな?」

「ちょっとパン食ってもいい?」

とおもむろに袋から取り出して食べ始めた。どうやらカセットテープショップ『waltz』の向いにあるサンドイッチ屋のパンが美味しいらしい。Yokさんが座っているレジカウンター周りは小屋というか不思議な空間が構築されていて、屋内型フェスの飲食店ブースのような雰囲気が漂っている。

「建物の中に小屋が入ってると可愛いじゃん。あとね、僕の中ではこれをいつかやりたいんですよ」

と店の奥からSTREET MARCKETというタイトルのペーパーバック本を取り出してきた。ストリートを作ってしまった彼らの世界が垣間見えるこの本は是非手にとって見て欲しい。

「これは衝撃だったね。あとはrelaxのなんともいえないゆるい空気感は出したいね。バリー・マッギーに描いてもらったら店は終了かな〜、なんて。そのくらい好きだね」

「なんか眠いね」

Yokさんはニコニコしながらそう言った。時計はもうてっぺんをとっくに過ぎて13時42分を指していた。お腹も減ってきたし、そろそろ事務所に向かおうかとiPhoneのボイスメモを止めようとするとYokさんがおもむろに喋り始めた。

「そういえば、センチじゃなくてインチで作ったりしてるかも。棚板とか腰板とかも実はそうなんだけど、インチで作るとアメリカっぽくなる気がするんだよね。規格がね。絵の話ってしたっけ? 前に絵を描いて先輩に見せた時に「なんかアメリカっぽくならないんですよね〜」って話をしたら、「アメリカのペン使ってみなよ」って。結局ペン先もインチ規格で作ってる筈だから。そこまで変わらないんだろうけど、そんな気がするんだよ」

この話を聴いた時、僕はハっとした。今まで考えたこともない意識の使い方に衝撃を受けた。 紙とかペン、店の内装もしかり、誰も気が付かない様な細かい部分をインチにすることでとアメリカっぽく感じる。そういや所ジョージが言ってたっけ。誰も気が付かないような、無駄なことこそが大事なんだと。

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