業界の常識を打ち破りたい。新宿路地裏のセレクトショップ「THE FOUR-EYED」

新宿・歌舞伎町の奥地、アダルトショップとラブホテルが並ぶ辺鄙な場所に、今年8月、THE FOUR-EYEDというセレクトショップがオープンした。

『STREET』編集室から独立したクリエイティブディレクター兼フォトグラファーの藤田 佳祐氏がオーナーを務めている。なんでも藤田氏が5年前に大阪から上京して以来、自分の生活の拠点としている新宿を夜な夜な練り歩き、見つけ出した空間だという。

店内はユニークな装飾とともに国内外のブランドと古着や雑誌などが並ぶ。

この情報だけから察すると、単なる新しいセレクトショップの誕生にしか感じないかもしれない。しかしオンラインショップ全盛の最中、藤田氏は「服が一着も売れなくてもお店のビジネスが成り立つような仕組みを作りたいと考えています」と意気込んでいるから、興味をそそられずにはいられない。「ファッションとは何か」という本質的な問いかけに立ち戻り、店舗展開するオーナーに話を聞いた。

ファッションは、自分の生命線
言葉なしで分かり合えるツール


—︎ストリートスナップでの活動は拝見していましたが、改めてファッションに興味を持ち始めたきっかけを教えてください。


小学生の頃ですね。当時うちが転勤族だったので、新しい土地で友達を作るためのツールとしてファッションに興味を持ちはじめました。

当時はそこまで考えてなかったのですが、ファッションが相手との共通認識になること。言葉なしで相手のことが分かること。柔道で言えば、組んだだけで相手の強さが感じ取れるような部分に魅力を感じたんです。

引っ越した初日は、クラスのみんなが好きなファッションのトレンドや各都道府県にあるルールを観察する。そしてその後にとりあえずトレンドど真ん中の服を着てみたり(笑)。ある意味「いじめられないようにしてた」という行為に近いけど、そうすることで違和感なく場に溶け込めたと思います。

その体験から、今でもファッションは自分の生命線と感じてます。初めて会う人たちとのコミュニケーションツールとして、ファッションは欠かせないです。

—︎ある意味、小さい頃からファッションと同様に、人を観察することも好きだったんですね。実際にファッションの仕事についたのはいつ頃ですか?


そうですね。観察して、その場/その土地の状況を理解することは好きでした。それがストリートスナップを続けられた根源かもしれません。キャリアのスタートは、大阪の老舗古着屋でした。7年程スタッフとして、お店の成長に合わせて販売の他にもバイイング、ディレクションに関わったりしました。そのノウハウと経験が今に活きていると思います。

その後、2011年にお店を独立するため東京に上京してきたのですが、丁度東京に引っ越してきた翌日に東日本大震災があって。「このまま何も知らない状態で東京に店を構えたら、やばいかも」という、なんとなくの危機感を感じたんです。

そこでマーケティングの意味合いも兼ねて、大阪の頃からお世話になっていた『STREET』編集部でスナップを行おうと思いました。ただ、当時東京での人数は足りていたので、実は『Fashionsnap.com』で2ヶ月くらいスナップ撮影していました。その後、東京の土地やコミュニティを知るなかで、たまたま『STREET』編集長の青木さんとお話しする機会があったんです。

青木さんとは、「なんとなく当時の『FRUiTS』や『TUNE』は面白くないし、むしろ渋谷のギャルの方が面白いよね」といった共通認識がありました。意気投合したのがきっかけで、結局『STREET』編集部に戻れました。そこから、『STREET』別冊の『RUBY』の立ち上げや『TUNE』を5年間程携わりましたね。

価格高騰する古着に
付加価値を付与しすぎない


今回、THE FOUR-EYEDを立ち上げるうえで、藤田氏が大きく影響を受けたのが、パリ発のブランド・VETEMENTS(ヴェトモン)だという。VETEMENTSは、飽和していた上質なハイブランドの世界観に、パリのアンダーグラウンドな要素を取り入れ、そのコミュニティに属する人たちをも巻き込んで、途端に世界中の業界人からストリートキッズまで注目を集めるようになったブランドだ。

そういった状況の変化を藤田氏は歓迎した。


—上京後に一度チャンスを逃したものの、今このタイミングでお店を立ち上げた理由は?


実は1年以上前にパリのセレクトショップ・THE BROKEN ARMで、無名時代のVETEMENTSのパーカを知らぬまま購入していたんですね。その後、このブランドってなんだろうと思いながら、翌シーズンのインディペンデントのショーを見に行ってみたんです。そしたら、独自のムードやコミュニティが感じ取れたんですよね。

「あ、もうこれは時代が変わったな」と思うくらい、当時の時代に変化の兆しを求めている人々がたくさんいたことに感動しました。今までに感じたことのない雰囲気に刺激されて、去年お店を立ち上げようと決意を固めました。

—︎新宿の辺鄙な場所に店を構えましたよね。


上京後からの拠点が新宿なので、自分にとって落ち着く場所なんですよ。ファッションで言えば、原宿や渋谷と違ってコンペティターもいないことも選んだ理由です。

ここの場所は、見つけるのに結構苦労しましたね。一度神頼みにある日新宿の花園神社にご挨拶に行ってみたんです。そしたら、帰り道に古めかしい物件の張り紙を見つけて、調べてみたらここだった。10年間廃墟状態だったので、最初は窓もなくて配線も何も使えなかったのですが、即決しました。


—︎ユニークな空間以外にも古着とブランドがミックスされたラックや服の価格帯からもお店のこだわりを感じます。


バイイングは、ディレクターの渋川の意見を尊重、信頼しています。既存の古着屋の多くは「知らないだれかが作った付加価値のある商品」を仕入れて提供していると感じるのですが、そこに自分も、我が物顔で付加価値を付けていたくはないんです。なので、僕たちのお店では、独自の適正価格を設定しています。

※期間限定ポップアップ開催時の店内写真


店舗における小売り事業は
いずれオプションになっていく


オンラインショップですべてが成立する時代に、あえてセレクトショップを出したのには、飽和する業界に違った価値観を提示したいという想いがあってのことのようだ。


—世界中のブランドがオンラインでさまざまな価格やルートで購入できるような現代において、セレクトショップの存在についてどう考えていますか?


僕もその答えを見つけるために、実験的な感覚でお店をやっています。今のところ、その方法論としていくつかアイディアを考えています。

ひとつ目は、コミュニティスペースであること。個人的にショッピングだけの目的なら店舗は必要ないと思ってます。今は僕のお店も小売を中心にビジネスが回っていますが、ゆくゆくは店舗における小売事業はオプションだと思っています。なので、究極として服が一着も売れなくてもお店のビジネスが成り立つような仕組みを作りたいです。

ふたつ目は、ショップ自体がブランドとコラボレーションする形。現在某ブランドと企画進行中です。

3つ目は、僕のお店ならではの方法として、ショップ内の大きな壁すらもビジネスとして利用すること。詳細は構想中です。

このような考え方なので、バイイングしているアイテムも将来立ち上げるウェブメディアのスタイリングで使用するために、リースではなく買い取っているという意識を持っています。小売のためではなく、自分たちが思うお店の将来像に合わせて、シューティングする服をストックしてる感覚ですね。

—︎では、お客様に提供するアイテムも従来のセレクトショップや古着屋とは異なりそうですね。


そうですね。自分たちの表現したいものをさまざまなツールや見せ方でお客様に伝えていければと。人それぞれの主観である「かっこいい、かわいい」という感覚は押し付けたくないんですよ。共感してくれるならうれしい限りだけど、だからと言って先ほど述べたように「絶対買って」とは思わないです。

日本のようにセレクトショップが数多上場している国って世界で見ても稀なんです。そういう意味で日本人は本質的に編集力に長けている。ブランドで言えばパリが頂点ですが、僕にとっては日本で1番になる=世界で1番になることだと思ってます。


—︎海外含め尊敬するお店があれば、教えていただけますか。


パリ拠点のTHE BROKEN ARMですね。パリにあるから上手くできているお店だと思いますが、似たようなものを感じます。彼らのように、僕らも土着的に日本でしかできないやり方や表現があると思ってます。なので

THE FOUR-EYEDが、次のショップのあり方や価値観を提示できたらうれしいです。

ここ数年、国内のセレクトショップや古着屋は飽和状態に達していたように感じていた。従来通りブランドを紹介するだけでは国外のオンラインストアの速度に負ける一方だと感じ、「国内のセレクトショップの存在意義とは」とモヤモヤしていた。

そんななか藤田さんは、THEFOUR-EYEDを通じて従来のショップでの売り上げをベースにするビジネスモデルではなくて、コミュニティスペースとしての存在意義を見いだそうとしているのだ。


セレクトショップ激戦区の日本で、THE FOUR-EYEDのチャレンジがどんなうねりを巻き起こすのか。

Photographer : Kenichi Inagaki

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