「CARBONで知り合った人や出会った人たち同士が、仕事にも遊びにも繋がっていくことがうれしい。そしてその人たちがまたふたりでお店に来る。その瞬間が一番の幸せなんです」
渋谷道玄坂上にあるカジュアルBAR「CARBON」のディレクターである大道寺 誠彦(daidoujirock)さんを取材したときに、最も印象に残った言葉だ。なぜなら僕自身がCARBONの常連であり、ここで出会った人たちと今仕事をしている。「人と人が繋がる場所」、CARBONは僕にとってもまさしくそれに当たるからだ。
ここではラッパー、モデル、DJ、ブランドデザイナー、スタイリストにフォトグラファーなど、名前を上げるとキリがないほどのアーティストやクリエイターがいつも飲んでいる。月に1回のペースで来る人も入れば、週3~4回通う人もいる。彼らにCARBONの魅力を聞くと、みんなやっぱり決まってこう言う、「人と人が繋がる場所」。そんな空間を生み出しているのは、大道寺さん本人の人柄によるようだ。
席の垣根を超えて広がる
コミュニケーション
16年という、人生の半分近くを原宿で過ごしてきた彼の愛称は、だれが言い出したかは定かではないが、“原宿のキムタク”。トレンドに敏感で、オシャレで、スニーカーマニアで、無類の音楽好き。たとえばDover Street Marketにセレクトされるようなスケートブランドをいち早く着用していたり、CARBONで芸人スニーカー同好会によるイベント「日本スニーカーばなし」を開催してたり、クラブVISIONで「CARBON DISCO」というディスコイベントを主催していたり。
何より、いつも人が集まる場所の中心にいる彼を形容するにはぴったりな愛称だ。そんな“原宿のキムタク”が、自身のスタイルの表現の場として選んだのが、このCARBONなのだそう。
「やっぱり人と話すのが好きだし、食事が好きだし、コーヒーが好きだし。だから自分は飲食の道に入ったんです。そのなかで自分の強みってものを考えたときに思ったのが、自分はわりといつも人が集まる場所の中心にいるなって。自分のまわりの人たちが集まる場所を作りたいっていう気持ちをベースに、CARBONの企画をスタートさせたんです。自分が、まるでコンセントのジャックみたいに人と人を繋げられたらいいなって。ここで繋がったことから、また次のアクションが起きて、一緒に新しい仕事ができたらいいなって思って。いつの間にかこれが自分自身のテーマとなり、お店のテーマになっていましたね。CARBONっていう名前もこの思いからきているんです」
“CARBON”は、直訳すると”炭素”。人々(炭素)が集まり、繋がる原点(原子、元素)。結束(結合)し、進化していく。コミュニケーションの源となり、お酒と食事を楽しむ場所。そして人と人を結ぶ場所。これがCARBONの店名の由来だそうだ。
「実は、何年か前にLAにある『CARBON』っていうBARに行ったことがあるんですけど、そのお店にインスパイアされているんです。たくさんのダンサーがいて、カップルもいて、すごい量のお酒を飲む人がいたりと、業界人も一般人もみんなごちゃ混ぜ。お店そのものにパッションというかエネルギーを感じた。ここの空間にいるだけですごいワクワクしたりドキドキするっていうパワフルさに衝撃を受けたんです。そういう場所の日本版っていうイメージで、自分らしくお店ができればいいなと思って、CARBONはスタートしました」
CARBONに来たことがある人は分かると思うが、ここに来ると“席に座る”という概念が壊れてしまう。飲食店って、普通は店員さんが来店人数に合わせて席を用意してくれて、その人数分のテーブルやカウンターに用意された席で食事を楽しむもの。しかしCARBONでは、気がついたら自分の座っていた4人掛けの席に、さっきまでカウンターに座っていた人がいきなり座っている。しかも5つ目の席を勝手に作っている。時間が深くなればなるほど、特に週末になるとこの現象はさらに広がりを見せ、常連さんはもちろん初めて来たお客さんすらも巻き込んで、全員が縦横無尽にコミュニケーションを取り始める。お店全体がひとつの大きなグルーブを生み出すのだ。
「この席のこの人と、あの席のあの人が繋がったら面白そうだなって思うと、すぐ紹介しちゃうんですよ。最初はそうやって席の垣根を超えて、僕が勝手に繋げていってたんです。でも気がついたら、席を超えてお客さん同士で勝手にコミュニケーションを取るようになってましたね。お客さんが勝手動いて、気がついたらカウンター前に溜まってみんなで乾杯してます(笑)」
“愛”と“夢”と“希望”と……
ロゴが体現する思い
いくら昔の友人たちをキッカケにいろんな人が来るようになったと言っても、そのそうそうたる顔ぶれにはビックリする。海外でも話題のグラフィックアーティストのYOSHIROTTENさん、さまざまな雑誌やアーティストを手掛ける人気スタイリストのTEPPEIさん、雑誌『Warp』『EYESCREAM』やWebメディア『HYPEBEAST』の各編集者など、今の東京のファッションシーンをリードする人ばかりだ。彼らとの出会いは、大道寺さんがCARBONをはじめる前、2004年頃から3年間ほどディレクションしていたカフェ『KOKORO cafe』時代に遡る。
「KOKORO cafeをやっていた頃って、ちょうどいろんなカルチャーがミックスしはじめた時代だったんです。音楽で言えばエレクトロの音にヒップホップが交わりはじめた時期。ファッションシーンで言えば、ストリートとモードがミックスしはじめた頃。KOKORO cafeは場所柄もちょうどいい位置だったのか、SWAGGERやSupreme、STUSSYのスタッフたちが来てくれたり、僕が飲食で働く前にいたモードファッション畑の人たちが来てくれたりしてましたね。その人たちが店内でリンクして、また新しい人を連れて来て、いろんなジャンルのいろんな人たちがKOKORO cafeで繋がっていきました。
セレクトショップ・STADIUMのスタッフCHAPと、SWAGGERのスタッフKIC©︎(現Awesome Boyディレクター)、当時同ブランドの看板アイコンでもあったJohnny(現John’s by JOHNNYデザイナー)やみんなでイベントをやろうっていって、『BASEMENT』というパーティも開催してました。何かあればKOKORO cafeに来ればいいっていう認識だったんだと思います。CARBONよりも小さかったけど、みんな集まってくれてましたね」
現在は、CARBON店内でのアートエキシビジョンや「CARBON DISCO」などのクラブイベントなどは開催するが、当時のように店内でのDJパーティなどはやらないそうだ。
「原宿と違って、この近くにはクラブがたくさんありますからね。ここでは、それよりもお酒と料理を楽しんで、人とコミュニケーションをとってほしいって考えたときに、わざわざDJを入れる必要はないのかなって思ったんです。でもお客さんや友人たちの”発信のスペース”になればいいなと思ってるので、壁を自由に使ってもらって不定期でエキシビジョンをやったりしています。エキシビジョンをやってくれた方々には、サインやタグを残していってもらってます。ここを使ってくれたアーティストたちにとっての”帰ってくる場所”になればいいな、と」
大道寺さんと話していると、いろんな人の名前が出てきて、人を大切にしていることがよく分かる。CARBONは、きゃりーぱみゅぱみゅやKAWAIIカルチャーを作り上げた会社、アソビシステムのお店だ。大道寺さんの10年来の友人である同社・中川社長から「一緒に飲食店をやらない?」と声を掛けられたこともキッカケのひとつだったそうだ。
CARBONオープン当初から働いているスタッフのTARUさんとCOCKNさんもKOKORO cafe時代からの友人だというし、同じくKOKORO cafe時代から親交の深いYOSHIROTTENさんは、4つの柱が特徴のCARBONのロゴを手掛けている。
「YOSHIROTTENがロゴのデザインを作ってくれたときに言ってたんですけど、この4つの柱、ひとつには”CARBON”と書いてあって、それ以外は空白なんですけど、ひとつひとつに”愛”と”夢”と”希望”という意味があるらしいんです。まぁ、本人は笑いながら言ってたから本当かどうかわからないけど(笑)。でも、僕やそのまわりの人たちを見ての、彼なりの表現なのかなって。本当に友人に助けられて、今の自分やCARBONがあるんだなって思います。遊びに来てくれるお客さんも、スタッフも、関わってくれる会社のみんなも本当に愛が多い人ばかりだから楽しいことばかりです。このロゴがそれを象徴してくれていますね」
(左から、KONCOSメンバーTA-1さん、
CANNABISスタッフyamarchyさん、
大道寺さん)
(左から、グラフィックアーティストYOSHIROTTENさん、
グラフィックデザイナーMOTTYさん)
(左から、DJ WRACKさん、Licaxxさん)
※上記3枚は2016年12月5日
『CARBON DISCO@Sound Museum Vision』での写真
何度も言うが、僕にとってもここは、人と人が繋がる大切さを本当の意味で教えてくれた場所だ。実を言うと、この取材を依頼してくれたSILLYの編集者も、写真を撮影してくれたYAYUさんも、みんなCARBONをキッカケに繋がった仲間だ。もちろん飯もうまいし酒もうまい。でもそれ以上に、大道寺さんの魅力に惹かれて集うカッコイイ人たちと出会えるワクワクが止まらないというのが本音でもある。
さて、今日もついさっきCARBONで出会った子とクラブにでも行こうかな。
Photographer:Yuya Okuda
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