伝えることを研ぎ澄ます表現者–––ゆう姫(Young Juvenile Youth)インタビュー

青野賢一

ビームス創造研究所クリエイティブディレクター/BEAMS RECORDSディレクター。ファッション、音楽、映画、文学、アートなどをジャンル横断的に論ずるライター。選曲家/DJ。

2012年に結成し、2013年『Anti Everything』、『More For Me, More For You』という12インチEP2作(ともに〈Phaseworks〉より)でデビューしたYoung Juvenile Youth

しっとりと包み込むような質感のなかにエモーションを織り込んだゆう姫のボーカルと、nujabes主宰のレーベル〈hydeout productions〉などから緻密かつ実験精神に溢れたトラックをリリースしてきた電子音楽家・JEMAPUR(ジェマパー)、ふたりの個性が融合したその作品は、耳のいいリスナーを続々と虜にしている。

エレクトロニックミュージックでありながら「歌物」から軸足をぶらさない音づくりやミックスの手腕、歌の佇まいで、凡百の「打ち込み系歌物」などとは一線を画するクオリティを追求し続けるYoung Juvenile Youthだが、2016年10月28日に限定カセット・テープ(!)とiTunes配信にて新作『Youth / A Way Out』をリリースした(〈U/M/A/A〉より)。


以下は、Young Juvenile Youthにとっての初コラボレーション曲や、ゆう姫も出演したショウダユキヒロ監督の新作オリジナル・ショート・フィルム『KAMUY(カムイ)』のテーマ曲を含む『Youth / A Way Out』の話から、海外公演のエピソード、自身のファッション観までを網羅したゆう姫へのインタビューである。

丁寧に言葉を選び、落ち着いたトーンに包みながら、自身のエモーションを真摯に伝えるゆう姫の語り口は、そのままYoung Juvenile Youthの音楽にもつながっているような印象であった。

—今回リリースされた『Youth / A Way Out』はYoung Juvenile Youth(以下、YJY)として初のコラボレーション曲「Youth」が含まれています。コラボレーションに至った経緯を教えてもらえますか。

『Youth』を共同プロデュースしたErik LeubsはMagical Mistakes名義で活動しているアーティストなんですけど、JEMAPURがもともと面識があって、私たちの『More For Me, More For You』という曲のリミックス(2013年リリースの12インチEPに収録)をしてもらっています。そうしたこともあって、JEMAPURと「誰かとコラボレーションしたいよね」と話していたときに、一番最初にコラボレーションするならErikがいいんじゃないかと声をかけました。


—ふたりで制作するのとはまた違ったところがあると思います。一緒にやってみてどうでしたか?

最初にErikから届いたデモのBPMがすごく速くて、それを相当遅くして今の状態になっているんですけど、音の質感なんかにErikの良さがすごく現れていて、多分ふたりで作ったら出てこなかった音色だったと思います。


—どのくらい速かったんですか?

めちゃくちゃ早くて「歌えないじゃん!」っていう(笑)。ダンスミュージックの速さですね。テクノとか。それを徐々にスローにしていきました。


—具体的にはどういったやりとりで制作を進めていったのでしょう。

主にJEMAPURがやりとりをしていて、BPMを落として使いどころを決めたあとに「こんな風になりそうだよ」とErikに相談したら、「こういう感じにミックスしたらいいんじゃないか」とか「こんな音色を足してみたら」とか、曲の構成というよりも音の話が返ってきたりして、そういうやりとりを重ねながら仕上げていきました。


ドラムにはPalmecho(コタニカズヤ)が参加していますね。

そうなんです。居酒屋で偶然知り合って(笑)。


—居酒屋⁉︎

たまたま共通の友人がコタニさんといて。「ドラムやってて、すごく格好いいんだよ」と紹介されて、話をしてみたらなんだか波長が合ったんです。それで音を聴いてみたらヤバくて、一緒に何かやりましょうとオファーしました。


—Palmechoは、僕が携わっている〈BEAMS RECORDS〉でも以前ミニアルバムをリリースしているんですが、彼はドラマーでありながらエレクトロニックミュージックに対する造詣も深いんです。

今回『Youth』でドラムを叩いてもらっていますけど、ライブでもこの前初めてコタニさんを交えた3ピースでやってみたんです。ドラムセットのほかにもいろいろな機材を持ってきてくれて楽しかったですね。


—実際に『Youth』を聴くと、エレクトロニクスと生のドラム音が違和感なく融合していました。

大事にしているところですね。


—そんなところも含め、YJYの音づくりはすごく緻密でバランスがいいですよね。クラブミュージックを通過してきた耳にもしっくりくるし、歌モノとしての存在感もあるように思います。

そのあたりはJEMAPURのこだわり––––音の隙間を作るとか、音圧の処理とか、私が到底たどり着けないところまでこだわって、いろんな音楽を参考にしながら作っているので、その成果ですね。私は基本的には自分の書くメロディと歌がどういう風にすると伝わりやすいか、私の歌声が気持ち良く聴こえるかを重点的に考えていて、いかにJEMAPURが作る音のなかに主張を消さずに入り込めるかを常にディスカッションしながら進めています。


—ボーカル物というと歌ばかりが前面に出てきたり、逆にアンビエント的なエレクトロニックミュージックでは、声にたっぷりリバーブを効かせてトラックに馴染ませるというものが目につきますが、YJYのサウンドはそれとは一線を画する仕上がりです。

リバーブ系には絶対に行きたくない(笑)。あくまでも歌物を作りたい。アンビエントにも寄りたくないし、単なるダンスミュージックにもしたくないというのはふたりとも同意見ですね。


—歌詞に日本語と英語が混在していますが、これは意識的にそうしているんですか?

結果的にそうなっちゃったというのが多いです。日本語を上手く曲に落とし込みたいんですね。日本語ですべて書けたらいいんですけど、どうしても英語が入ってきちゃう。それは私が英語を喋れるからというのもあるけれど、日本語のダイレクトさがちょっと気恥ずかしいところがあって、それを歌詞にしてしまうと逆に思いが伝わらないんじゃないかって気持ちになってしまって。だから英語とミックスさせることによって、日本語の部分が上手く浮かび上がってきたらいいな、と思っています。

—2013年のデビュー作が12インチEP、今作がカセットテープということで、メディアの選択も実に面白いYJYですが、そのあたりは何か思い入れがあるんでしょうか?

何かこう面白みのあることをしたい、という気持ちが強くて。レコードを聴いたときに全然聴こえ方が違うじゃないですか。その面白さという側面ももちろんあるんですけど、レコードがいいなと思ったのはあのサイズのジャケットに絵が描けて、それをアートワークとして成立させやすいというところで、そこに惹かれたというのはあります。最初の12インチはジャケットもシルクスクリーン印刷だったですし。


—視認性の高さ、触ったときのテクスチャー感、そして作り手がやる気になればどこまでも作り込める面白さがLPサイズのレコードジャケットにはありますよね。今回のカセットテープのスリーブにゆう姫さんの絵がフィーチャーされていますが、これは出来上がった音を聴いて描いたんですか?

聴きながらは描かないですね。でも不思議と仕上がったときに音と絵の共通点が見つかります。別に考えて描いたわけではないけれど、結果そうなっていますね。以前は「この曲のイメージで描かなきゃ」っていうのを自分に課していたんですけど、どんどん深みにはまって(笑)。それで、もうあえて何も聴かずに自由に描こう!と思ってやっていったら、結果としてリンクするものが見つかりました。

プロの仕事に触れて

ますます高まるコラボ欲


—『Youth / A Way Out』の「A Way Out」はショウダユキヒロさんが監督したオリジナルショートフィルム『KAMUY』のテーマ曲ですね。ショートフィルムでは、新たに演技にも取り組んでいます。

ショウダさんのアイディアをベースに、各分野のプロフェッショナルな方々が意見を出し合って徐々にかたちが出来上がっていった感じがあって、そのプロセスを最初から見ることができたのはよかったですね。


—衣裳はスタイリストの伏見京子さんですね。

そうです。もともと《ハプニング》(伏見さんが中心となり2014年に発足したプロジェクト。東京のファッション/アートシーンに刺激を与えるべく、東京メトロ銀座線や表参道でのゲリラショーなどを行っている)は知っていて、《ハプニング》をやってる人ってどんな人たちなんだろうと思っていたんです。それで、『KAMUY』の話が来て、衣裳をどうするかとなったときに「ハプニングやってる人たちがよさそう」と思って、伏見さんにたどり着きました。プロットが結構出来上がっている状態でお話を持っていったんですけど、話が早いなぁという印象で「やっぱりさすがだなぁ」と思いましたね。出てくる発想も面白くて。


—異分野の方々とコラボレーションは刺激があったんじゃないかと思います。

やっている最中から思っていましたが、機会があればまたいつでもやってみたいですね。今後は海外のアーティストともいろいろコラボレーションしてみたいです。


—実際の上映では観客は寝転んで観るということで、鑑賞方法もユニークですよね。

撮影前にロケハン合宿で風穴を巡ったりしたんです。その日に泊まったところで、みんなで寝転がりながらプロジェクターの映像を観ていて「寝ながら観るのいいね!」「ベッドがあってさぁ」みたいな感じで話していたのが、本当になっちゃった(笑)。


—ショウダさんにはYJYから声をかけたんですよね。

はい。以前からショウダさんとは何かやりたいと思っていて。ある日バーにショウダさんがいらしたので声をかけて。


—Palmechoといいショウダさんといい、飲み屋での出会い、多いですね(笑)。

確かに(笑)。基本、引きこもり体質なんですけど、出かけると何かいいことあるんだぞって自分に言い聞かせて外出してますね。


—僕も出不精ですね。平日はまっすぐ帰って食事して、朝4時頃まで原稿書いてなんて生活していると、そういった出会いの機会がなかなかなくて、マズイなぁと思ってます。

ダメですよ出かけないと(笑)!

ウクライナ・キエフ公演の

成功と観光秘話


—出かけるといえば、つい最近もウクライナに行ってらしたんですよね。

ウクライナのキエフで行われた《FF’Space Focus》というイベントに出演してきました。空港からシティまでの道のりで、愕然とする景色がありましたね。やっぱり共産国の名残がものすごく強くて、四角い箱いっぱい造りましたみたいな何の飾り気もない、何の感情も入っていない、セルの集合のようなバカでかいビルがたくさんあって。寂しさとか悲しみとか怒り、そういう感情が漂っている気がして、「怖いな」と。人も警戒心が強い感じがして。ところが会って話してみると、みんな優しくて、真面目で、頭が良くて、話している内容も政治や芸術についてだったりして、本当に聞いていて面白かったです。そんなところから人に対してはすごく情が湧きましたね。


—ウクライナは2000年以降くらいから電子音楽なんかで先取的なものが出てきましたよね。イベントはどういった内容のものだったんですか?

電子音楽家ばかりが出演したイベントですね。プログラムをリアルタイムで生成して音を出すとか、マシンドラムをひたすらやったりとか。面白かったですね。で、彼らが言っていたのは、キエフのなかでもこのイベントみたいなものはアンダーグラウンドだということで、確かにそう感じました。


—お客さんの反応は?

すごく温かかったです。本番前もみんなと喋っていたりしたんですけど、YJYのミュージックビデオを観て私の顔を認識してくれている人がたくさんいて、演奏が終わったあとに、わーっとまわりに集まってくれて『アメイジングすぎて言葉にならないわ』とか『こんな音楽聴いたことない』とか、温かい言葉をたくさんいただきました。反応がダイレクトで、こっちを観ずにお構いなしに踊ったり、私の方に来る人もいたりと、さまざまな楽しみ方をしている人たちがいて。それぞれの音楽の楽しみ方があっていいなぁと思いました。それで私も歌いながら気持ち良くなって、それがまた伝わっていたのかな、とも感じましたね。伝染して。


—じゃあパフォーマンスも反応もすごく満足のいくものだったんですね。初ウクライナということで、観光する時間はありましたか?

1日だけありました。聖ソフィア大聖堂というキリスト教の聖堂(1990年に《キエフの聖ソフィア大聖堂と関連する修道院群及びキエフ・ペチェールシク大修道院》の一部として世界遺産に登録されている)に行ってきたんですけど、中がすごいことになってて。写真撮りたかったんですけどNGだったんで残念でした。で、この大聖堂に向かう途中に《独立広場》というのがあるんです。観光地化している広場なんですけど、鳩を持った人には気をつけた方がいいって言われていて……。


—え、鳩⁉︎

そう。鳩をポンッと乗せてきて写真撮ってお金をせびるみたいな。実際、行ったらホントにそういう人がたくさんいて「ヤバイ、狙われてるぞ」って思ったんです。でも、ずっと無視して写真を撮っていたんですね。そうしたら背後からパンダと猫の着ぐるみを着たふたりが近づいてきて「Yeah! Are you from Japan?」とか言ってきたんです。それで「ヤッバイな~」なんて思っていたらどんどんノリノリになってきて、強引に握手させられたんです。写真もたくさん撮られて。そんな風だったんですけど、最後に「お金くれ」って(笑)。どうもあっちでは握手をしたら契約成立みたいな不文律があるみたいで、強引にとはいえ握手しちゃったからお金をくれと。持ってないって言っても「日本円でもいいぞ」とか、着ぐるみの頭を外して人間の顔になって言うんです。


—で、最終的にはどうしたんですか?

最終的には、そういうとき用にと思ってポケットに入れておいた200円くらいに相当するお金を「これしかない。あとはカードしかない」って言って渡しました。そしたら「200円か、シケてんな」みたいな感じで、でもしっかりもらって行きましたね(笑)。

ファッションに自己のアイデンティティを

落とし込むのは難しい


—海外だと、パリコレにも行ってきたそうですね。

コレクションを観に行ってきました。観たなかでは〈KENZO〉が印象に残ってますね(2017年春夏のウィメンズコレクション)。本物の人間が銅像に扮していてずーっと動かないんです。結構きわどい恰好をしていて。最初はみんなそれに注目しているんですけど、いざモデルが登場したらそっちに目が行っちゃうじゃないですか。服を観に来ているので。なんだか不思議な空間でしたね。


—なるほど。ファッション方面からゆう姫さんに注目している人も多いんじゃないかと思うんですが、ゆう姫さんにとってファッションとはどういうものですか?

……うーん。ファッション自体は好きですけど、私という存在は薄くなるのかなって思いますね。


—というと?

かっこいい服を着れば着るほど、私が薄くなっちゃうという感じがちょっとあって。それはパリで思いました。私自身が浮き彫りにされるというよりも、いかにかっこいい服かというのが大事な世界なんだなぁ、と。そこにはもちろん芸術性はあるんだけれど、個人単位で考えたときに、どうなのかなぁ……毎日そんな恰好できないし、しないだろうし……。だから自分のアイデンティティをファッションに落とし込むのは難しいなって思いました。


—では、逆にどんなファッションだったら自分を表現出来そうですかね。

パジャマ! パジャマ好きですね。チェックのパジャマとか。着心地のいいもの。カナダにいたときに“パジャマ・デー”っていうのがあって、みんなパジャマで学校に行くんです。枕を持って来たりテディベア持って来たり、スリッパのまま来たりして。それがすっごく好きだったんです。パジャマのままで授業を受けてごはん食べて帰ってパジャマで寝る、みたいな(笑)。なんて素晴らしいんだろうと思っていたんです。


—じゃあ次のライブはぜひパジャマで(笑)といったところで、直近の予定を教えてください。

『Youth / A Way Out』のなかの曲の新しいミュージックビデオがリリースされたばかりです。それからフルアルバムは絶賛制作中。来年の早い段階には出したいです。ライブもたくさんやっていきます。ライブは反応がダイレクトに伝わってくるからいいですね。最近はPalmechoも加わって、自分たちの音楽がより伝わりやすくなったんじゃないかと感じています。今後はこの3ピースでどこまで行けるかというのを構築して、より楽しんでもらえるライブにしたいなと思っています。

Young Juvenile Youth 『Youth / A Way Out』¥ 1,620

数量限定カセットテープ

Young Juvenile Youth『Youth』『A Way Out』¥750

iTunes先行配信リリース

【ライブ出演情報】

RB×BR-UNPLUG #023 TOKYO

開催日時:2016年12月17日 24:00〜29:00

場所:WWW X

金額:無料(上記リンクから参加希望を送信)

出演:Young Juvenile Youth、Monkey Timers、Dazzle Drums、Licaxxx、Tori

Photographer:多田 悟 / Satoru Tada


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