寺院×ART「だるま商店」の絵画から見える日本

京都に住む知人から、「だるま商店」というアーティストの話を聞いた。彼らは、極彩色を用いたアート作品を京都のあらゆる寺院に奉納をしているという。

代表作には六道珍皇寺に奉納した「屏風 極彩色 篁卿六道遊行 絵図」や、随心院に奉納した「襖絵 極彩色梅匂小町絵図」といった作品が挙げられる。

「伝統的な寺院」と「現代アート」が混ざるとはいったいどういうことなんだろうか。彼らの制作過程に深く興味を持った私は、アトリエに伺うことにした。

「だるま商店」のアトリエは、清水五条を5分ほど歩いたエリア「あじき路地」のなかにある。町家長屋を奥に進むと、アトリエの目印となる赤い傘が見えた。戸をたたくと、ディレクターの島 直也さん、絵師の安西 智さんが迎え入れてくれた。 

偶然の出会いから
ユニットを組むことに


まずはふたりがユニットを組んだきっかけから伺った。

「僕は以前広告代理店で、CMを作る仕事をしていました。当時、プライベートで遊びにいったイベントで安西の絵が展示されていて、緻密な絵に魅せられて絵を買いました。それから2年後に酒場でたまたま安西に出会ったんですよ。酒場で話している時には美術に関して触れなかったのですが、安西が終電を逃したというので、僕の家に泊めました。すると彼が僕の部屋の絵をみるなり、『これ僕の絵や』といったんです。そこで初めて、この男が絵を書いた本人だと知ったのです。僕は広告会社からの独立を考えていたので、彼にユニットを組もうと誘うことにしました」

こうしてユニットを組むことになったふたり。安西さんはそれまで活動をしていた関東から京都に移ることを決意。試しに作品を作ってみようというところからはじまり、12年間にわたり現在まで「だるま商店」が続いている。

漫才師やタレントさんが
構成作家と組んでいるようなもの

島さんがディレクター、安西さんが絵師と役割を分けて制作しているとのことだが、どのように作品を作り上げているのだろう。

「彼が主体になるときもありますし、僕が主体になるときもあります。時と場合によりますね。細かいところまでお互いが決めるときもあるし、ざっくりとしか伝えないときもある。ものづくりの核として『お客さんが何を求めるか』だけは必ずお互いに理解しなくてはいけないので、そこだけはぶれないようにしています。それ以外は遊んでもいいかなと思っています」

絵描きユニットというと、ひとつの絵を描くために背景と人物の担当を分ける、といった作業分担をしていることが多いなかで、彼らのように「ディレクター」と「絵師」を分けるやり方は珍しいように思う。

「逆になんで皆、こういった分け方をしてないのかなって思うんですよね(笑)。他の分野でも結構このスタイルはありうることで、ボクシングだったら選手にトレーナーがいたり。漫才師やタレントさんだったら、専属の構成作家がいたりするとの同じようなことを、僕らはひとつのユニットのなかで分けているだけなんです」


ネットに溢れる情報以上に
目の前にいる町に学びがある


安西さんはユニットを組む前までは関東で活動し、島さんも東京に住んでいた時期もあった。にも関わらず、ふたりが京都を拠点に決めた理由とは。

安西「こんなに町中に着物があふれてるところはないと思うからです。たとえば、あじき路地のすぐ目の前の銭湯に芸妓さんや舞妓さん来たり、少し歩いたらお坊さんがいたり、作品の資料になる物を普段の生活のなかで見られるのはいいことだなと。

東京にいると、着物や日本髪を日常で見る機会ってなかなかないですよね。だからインターネットで調べてそれを模写するしかない。でも京都にいたら実際に見れますし、聞けますし、自分でも着付けしてみたり、髪を結ってみたりする。実際に使われている物を、自分達で見たり触れたりしないと納得できないんです」

ただ二次元で見てきた物を描き並べるだけではなく、いろんな角度から徹底的に調べ、作品を作る。教科書で習った歴史や、ネットで出てくる情報だけでなく、自分たちが見たもの、その土地に根ざした人と話して感じたもの、実際に触ってみた感覚を作品に落とし込んでいるのだ。

「以前、京都の精華大学という美術大学で講師を務めていたんですけど、生徒がほとんど京都のお寺に行ったことがないと言うんです。それを聞いて、課外授業としていろんなお寺に連れて行くようにしました。だって海外の方がわざわざお金を払ってまで来るような日本の歴史がごく近くにあるのに、そこに気付かないのはもったいないじゃないですか。

やっぱり日本人の人に日本のことを深く知ってほしいという気持ちはありますし、僕らの作品は日本人にこそ見てもらいたいです」

表現領域は絵画にとどまらず

映画村の『遊郭』も

土地に根ざし、歴史や人に触れ、いろんな角度から見たことや体感したことを踏まえて作品を作る「だるま商店」。今後はどのような活動をしていくのだろう。

「僕らは『何でも描く、どこでも描く』というコンセプトで活動しています。ですから、神社や寺院に絵を奉納したり、銀座にあるお寿司屋さんに絵を納めていたり、舞台のポスターを作ったりもしています。それ以外にも立体物を作っていて、東映が所有している映画村で開催されるイベントで年に2回『遊郭』の企画も担当しています」

島「遊郭ではドラァグクイーンに着物を着て歌ってもらいます。舞子さんの衣装を、実際に舞妓さんに着付けをしている人に依頼したり、メイクをシャネルのコレクションメイク担当者にお願いしたりしています。

江戸時代の文化は、浮世絵が有名ですけど、皆それくらいしか当時の文化を知らないじゃないですか。当時の雰囲気をダイレクトに感じてもらうために、僕らが絵に描きたい世界観を実際に生身の人間を使って表現しているんです。来場する方もみんな浴衣を着て、お酒飲んで、江戸時代の町を練り歩いて。だいぶ異空間ですよ(笑)。この企画を歌舞伎の舞台や大相撲の両国国技館といったところでも展開できたら面白いですよね」

絵で表現してきた世界観を実際の建物、着物、人でつくりあげる。表現のアウトプットは違えど、だるま商店の鮮やかな色彩はそのままだ。

「この間、舞妓さんの下駄とドラァグクイーンのヒールを並べたんですけど、高さが一緒だったんです。昔も今も、日本人は足を長くしようと必死なんですよ(笑)。昔から考えていること、美徳とされることが変わらなかったりするんです。 そんな風に文化というものの面白さが若者たちに伝わればいいですね。立体物も絵も含めて、現代と過去の不思議な融合を表現し続けて、最終的に僕らの絵画が皇居に飾られたら嬉しいですね」

日本の歴史にうとい若者も、「新しいもの」ばかりを追いかけがちな東京人も、「だるま商店」の絵やパフォーマンスから、日本とはどんな国なのか、改めて紐解いてみるのもいいんじゃないだろうか。

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