近年、「なんでこんな可愛い子が?」と疑問を持たざるを得ないほどAV女優のルックスのレベルが上がっている気がする。
「セクシー女優」という呼ばれ方でAV女優がいくつものバラエティ番組に出演するなど、AV女優の地位は昔から比べると少しずつではあるが向上してきているともいえるかもしれない。それでも性産業に従事する人に、白い目を向けたり、後ろ指をさしたりする人は少なくない。
今回インタビューさせてもらったのは、元AV女優で、身元がばれやすい単体女優という過去を背負った女性だ。
「だれにも言わなければ、身元がばれないだろう」と、気軽にAV作品に出たものの、一度撮られた作品は、インターネットの海からその画像や動画を完全に消去できない。そんな重みを今になって痛感しているという。
AV女優として生きることを選んだ理由と、その仕事が彼女にどのような影響を与えたか。そして彼女が今思うこととは?
コールガールのつもりが
AV女優という道へ
「きっかけは、単純にお金が欲しかったから。ネットで見つけたコールガールのバイトの面接に行ったら、社長に『AV出てみない?』と誘いを受けて。稼げるかどうか聞いたら、『稼げるよ』って言われたからはじめることにしたんだよね。
そこからいくつかのAVメーカーさんに営業かけてもらって、一番条件のいいメーカーに単体女優として契約した。それからはトントン拍子で、1カ月以内に作品を撮って3カ月後にはリリース。作品はそれなりに売れたから月4日くらい働いただけで、100万円くらい稼いでた。昔水商売もやってたし、出演すること自体にも抵抗はなかったかも」
現在、街には水商売から風俗まで、さまざまな性産業が存在している。そのなかでも特に過激な職業を抵抗なく選んだ彼女。大変ではなかったのだろうか?
「ホステスやキャバクラの場合、お客さんを得るために頑張らなきゃいけない部分が多い。でもAV女優は、事務所が全部マネジメントしてくれる。私が演技することで関係者みんなにお金が入るわけだから、私は現場では神様のような扱いだった。私が『これ欲しい』とか、『これはやりたくないです』とか言えば大抵叶えてくれた(笑)。現場は過酷だと言っても、1カ月のうちに働くのも4〜5日くらいだしね」
お金を介さないと
人と接することができない
ある意味異常とも思える現場だが、楽しかった時代の思い出を振り返るかのようにあっけらかんと現場の様子について話す。それでも当然、AV出演によって自分自身が大きく変化したことを自覚している。
「月に4日だけ働けばたくさんのお金が入る分、人間的な堕落がすごかった。周りの女優ちゃんたちも、貞操観念が狂っているのはもちろんのこと、お酒、整形、薬物のどれかにハマる子が多かったし、まともな生活ができている子なんていなかったと思う。でもはじめからそんなものかなと予測してたので、特別驚かなかったけどね」
AVの世界に足を踏み入れることに抵抗はなかったと話したが、AVの撮影自体にはストレスがつきまとった。同時に人からの見られ方を激しく意識するようになっていった。
「自分の痴態が不特定多数に晒されることで、だれかが私のことを後ろ指している気がする。そんな風に人間不信に陥ってしまったから、だれかに会いたくても、お金を介さないと安心して人と接することができなくなってしまって。それはしんどかったかな」
AV引退、愛人業、OL
そしてニートへ
オンラインチャートでも1位を獲得するほどの人気絶頂の最中、彼女は数本の作品を世に残し、契約を更新することなく引退した。
「当時付き合っていた人ときちんと向き合いたい気持ちがあったから、契約が切れると同時に、表向きは『大学行きます』と言ってやめた。結局大学も中退しちゃったけど(笑)」
AVという過激な世界に身を置いた後遺症からか、いわゆる“普通の生活”に戻ることは容易ではなかったようだ。
「その後すぐに小さな専門商社のOLをはじめたよ。3カ月前にやめちゃったけど(笑)。それでも複数人と不倫して、ものを買ってもらったり、お小遣いをもらう『愛人業』をしていたからお金に困ることはなかった。だけどいろんな大人たちに恋人みたいな立ち振る舞いをしなくちゃいけなくて。なんか疲れちゃったからそろそろ『愛人業』もやめようかなとも思って」
OL時代にはじめて感じた
生活のハリと達成感
AVを引退後、性産業とはかけ離れたOLとして働くことで、AV女優の時代と比べて、感覚に変化が見られるようになったと彼女は語る。
「今思い返してみると、AV女優を辞めて普通に9時5時の仕事をしていたときが一番楽しかったかも。毎日やるべきことがあって、生活にメリハリがあったし、仕事に達成感があった。
職場でAV時代のことがバレることもなかったし、なにより人間レベルが上がったと思う。金銭感覚はなかなか戻らないけど、毎日夜遊びしなくなったし。少しずつまともな生活ができるようにはなったかもしれない」
とはいってもOL生活もそう長くは続かず、現在ニート生活3カ月目に突入するという。
「ニートの朝は遅い、夜も遅いよ〜」と笑いながら語る。こうしてみるととても可愛いらしくて健康的な女の子にしか見えなかった。
「こんなこというと変だけど、AVの仕事をしていた自分も、OLとして仕事をしていた自分も、振り返るとぜんぶ別人みたいに思えてくる。自分のなかにキャラクターがいっぱい存在してる感覚がある。だれしもがその場その場で自分を演じているとは思うんだけど……。その傾向が私は人一倍強いと思う。AV女優って、多かれ少なかれ問題を抱えているケースが多いんじゃないかな」
『これは本当の自分ではなくて、演技をしている別の人格だ』、そう思うことで、少しでも作品に出ている自分と本当の自分を遠ざけて身を守っているのかもしれない。ここで単刀直入な質問を投げかけてみた。—AVに出たことを後悔していますか?
「そうだね。ネットで調べたら自分の作品は出てくるし、一生残ることは後悔してるかな。もう仕方ないことだと割り切っているけど、結婚して子供ができたときに、『自分の娘とか息子にバレたらどうしよう』って単純に思うんだよね。引退した後でも周囲の視線が気になったり、人間不信からうつ病を患ってしまったりという後遺症もあるしね。お金の分くらいリスクのある選択をしたなと思うよ」
有名になるために
AVに出ることを私は勧めない
自分と同じようにAV女優という生き方を選ぶ女の子たちに、彼女は何を思うのだろう。
「AV業界には、将来女優になりたい子、単純に人気者になりたい子、芸能人を目指してる子がいっぱいいるのね。そのきっかけがAVなのは否定しない。
けどAVを目指すか迷っている子たちは、AVに出るリスクを調べてきちんと考えてから決めるべきだと思う。私の意見からすると、やっぱりAVに出演したという過去はない方が良い。調べたら出てくるし、一生残ってしまうものだから。
人間って、超頑張ったらどんな仕事でも月100万円くらいは稼げるじゃん。けど私を含めてAV女優になった女の子は、『人があまりやりたくない仕事をする代わりに、ラクして稼いでる』だけだと思う。そして普通の感覚ではなくなってしまう。そこの部分をもう一度考えたほうがいいなって思う」
あくまで冷静に『ラクして稼いだ代償』と自身の過去を話す彼女の口ぶりは凛としていた。まだ大学を卒業したくらいの年齢の彼女は、普通の生活に戻ることからはじめている。
すごろくに『いったん休み』のマスがあるように、今は少し休息が必要なのかもしれない。彼女がまた次の一歩を歩むとき、次の目標を見つけていることを願ってやまない。
Photographer:松井春樹 / HARUKI MATSUI
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