22歳のイケメン・コスプレイヤーと「生きづらさ」について語り合ってきた

今年の夏、福岡県福岡市早良区西新にちょっとした用事のため日帰りで行く機会があった。滞在時間は短かったものの、初めての福岡を堪能したいと思い「しばらく」というラーメン屋で本場の豚骨らーめんを食べた。あっさりとしてそれでいて奥深いコクのあるスープに替え玉を2皿も頼んだ。食べ終わって、ほくほくとしながら「さぁ帰ろうか」と荷物を持ったところで、そういえば福岡には以前から会いたいと思っていた人がいたことに気づいた。


副島和樹。九州大学の学生でありながら、現在、第29回ジュノン・スーパーボーイコンテストに出場中の22歳のイケメン・コスプレイヤーである。別名、ソエジマジカル。

彼を知ったのはおよそ1年前、ツイッターで唐突に流れてきた画像を見てからだ。ハリー・ポッターの格好をしながら山笠の前で鬼気迫る顔でポーズをとるメガネの青年。写真には「おっしょいおっしょい‼ 天下の奇祭! 山笠バイ!! 今日は山笠! 福岡イチのお祭り! 猫も杓子も大騒ぎ!! 今年も皆元気であれ! 暑さに負けんとよ~!!」と、書かれていた。ひとめ見て、容姿端麗ながら明らかに他の出場者と異なるオーラを放つ彼の虜になってしまった。


調べれば調べるほど、奇妙な彼の経歴。生まれた頃から日本で暮らしたことはほとんどなく、インド、マレーシア、チェコで少年期を過ごしてきた。九州大学に通いながら、勝手に「文化の伝道師」を謳い、謎のBGMをバックに踊り狂う様子をYouTubeにアップロードし続ける。

「ナマステースラマパギードブリーラーノ!」や「シュブラートリースラママラームドブリーヴッチェー!」など、毎朝晩、Twitterに世界のどこかの国の言語での挨拶を唐突にぶち込んでくる。目的も不明ならば、正体もよくわからない。動画の編集はとても荒い。いつしか彼に会いたいと、個人的なコンタクトを取るようになっていた。


「今、そういえば福岡なんですが、暇ですか? 30分ぐらいお茶でもいかがでしょうか?」とダメ元でメッセージを送ると、ものの5分で返信が来た。「どこですか? 向かいます」。とにかくレスポンスが早い。若干怖い。どんな男が来るのかわからなかったので、人目に触れるところの方が危険を回避できると思い、西新のドトールを待ち合わせ場所に指定。ソエジマジカルが現れるのを待った。

数十分後、「ドトールがなぜか僕のGoogle Maps上に存在しなくて。違うレイヤーにあるのかと思いました!」などとのたまいながらソエジマジカルは、だるだるのTシャツと、恐ろしくダサいカバンをもって現れた。しかし、透き通るような白い肌と、天使のような笑顔、浮世離れしたオーラ、確かに違う世界線の上に生きているーーそんな漫画的な非現実感がソエジマジカルからは明らかに漂っていた。


インド、マレーシア、チェコ育ち

副島和樹が、アニメにハマった理由

—今日は来てくれて、ありがとうございます。急にごめんなさい。

「いやいや、ケーキまで奢っていただいて、すみません。おいしいです(ブルーベリータルトを頬張る)」


—あの……ようやく一年越しにお会いすることができたんですが、副島くんの笑顔って現実にこうやって目の前にして見ても、天使みたいですね。

「ありがとうございます。僕、初対面はわりといい顔できる人間なんですけど、関係性ができてくるとそうでもなくて……人間的にだらしないところを見せすぎて、急に別れを告げられることもあって……」


—昔の彼女とか……?

「それもありますね。こういうこというとちょっとソエジマジカル・ファンタジーを壊しちゃうかもしれないんですけど……。今まで付き合った子も別れ話になると『あのねぇ〜、私は副島くんのお母さんじゃないんだから』とかってため息つかれちゃったりして。基本的に時間にルーズなんですよね。勝手に前から決まってた予定をコロコロ変えちゃったりするんですよ」


—確か部屋も、ものすごく汚いんですよね。22歳男子としては普通なのかもしれないんですけど。

「そうなんです。よくご存知で。食材を電子レンジで爆発させて放置することも多々ありまして。『あなたの人間としての価値観がまったく信じられない』って言われたこともありますね」


—副島くんって、ずっと海外で暮らして来たんですよね? 日本にはいつ帰って来たんですか?

「生まれたのは三重で、その後、愛知に引っ越して。親の仕事の都合で小学校に入ってすぐインドに移住しました。中学校がマレーシアで、高校がチェコですね。兄妹は四つ下の妹が一人いて。日本には大学入学の時に帰ってきました」


—そんなにいろんなところを旅していたら、友達とか苦労したんじゃないですか?

「苦労した面ももちろんありましたけど、もともと根無し草的な性質があったんですかね、あんまり寂しいって感じたことはなくて。さっきも言いましたけど、初対面の印象は異常にいいので、その場その場で友達はいました。僕、オタクだから結構勘違いされることも多いんですけどひとりで家にずっとこもっていると病むタイプで。だれかと関わらないとダメな人間なんです」


—なるほど。漫画とかアニメにハマったのはいつ頃からですか?

「それも小学生ぐらいの頃ですね。インドに住んでいた頃は、自由に外出できるような環境じゃなくて。基本的にドアツードアの生活だったんですね。当時はお手伝いさんとかもいたりして、その人にインドの神様のお話を教えてもらって、それを絵に描いたりしてました。やっぱり外国で暮らして思ったのは、日本の文化とか歴史って、漫画やアニメを通して親しまれてるんですよね。それを介して友達を作ったりする、コミュニケーションツールとして活用していたところもありました。あとは、キトラ古墳の絵をひたすら模写してたかな……」


—キトラ古墳……。

「母が仏教美術が好きだったんです。そんなことばっかりやってましたね」

ジュノン・スーパーボーイコンテストを契機に

日本文化に貢献できる婿入りマジカルになりたい

—初めて好きになった美少女キャラとか覚えてます?

「中学1年生の時に『ハヤテのごとく』の瀬川泉さんを好きになって。自分はかなりの受け身なので、ぐいぐいリードしてくれる女性が好きで。ハヤテくんに自分を投影していましたね」


—理想の女の子も、強い女性ですか?

「理想の女の子は、自分が『バブみ』を感じられる女性ですね。母性に溢れていて、甘え尽くせる人がいいなぁ……って何言ってるんですかね(笑)。現実はやっぱり厳しいです……。恋愛関係でのゲスな夢としては、和菓子屋さんとか旅館みたいな日本情緒溢れる老舗の一人娘の婿入りマジカルになりたい」


—婿入りマジカル……。そもそもコスプレをしようと思ったのは、なんでですか?

「海外にいた頃から、わりと目立ちたがりではあったんですね。でも、自分に自信はなくて。コスプレする人たちって自分大好きっていうタイプの人もいると思うんですけど、僕は変身願望があるからコスプレするっていう典型的なオタクですね」


—2014年に九州大学のミスターコンテストに出場してますよね? このプロフィールが狂気的で。ストレス解消法が「ヒラタクワガタに鉛筆を挟ませる」ってふざけてるのか、マジなのかもわからないところがすごく怖かったんですけど。これに出たきっかけは?

「自分は今、留学生会館っていうところで暮らしていて、海外から来た留学生たちの面倒をみる寮長みたいなことをやってるんですけど。今もルームメイトが、ベトナムと中国から来た人たちで。その子たちが『こんなのあるみたいだよ、出てみれば〜』って勧めてくれた感じですね。ソエジマジカルって名乗りはじめたのも彼らの勧めで『君はポッター的な感じがするから、やってみたら?』って言われて」


—で、昨年初めてジュノン・スーパーボーイコンテストに出場することになったわけですが。これもまた結構、大きな飛躍ですよね。コスプレの男の子が求められている大会か……って言われたら世間的な認識としてはそうではないわけで。

「嫌な言い方になりますけど、コスプレをしたらちやほやされたんですよね。それで調子に乗ってしまったんでしょうね。あと、最近こそありがたいことに『イケメン!』とか言っていただくこともありますけど、九州大学のミスターコンテストは、例年バカなこととかネタっぽいことをやった人が優勝する大会で。だから優勝したときも、自分の容姿が認められたとは思ってなかったんです。コスプレとか、キャラがウケたと思っていて」


—あぁ、そっちのタイプのミスターコンテストだったんですね。

「今日もこんなダサい格好で来てますしね。でも『なんか……ウケるんだったらやってみようかな……』って。本当は小心者なのでスイッチを入れないと人と話せなかったりするんですが。ネガティヴだし。でも、ジュノン・スーパーボーイコンテストに出ようと思ったのは、それがやっぱり自分が目指している夢に繋がるかな……っていう思いがあったので」


—その、マジカルの夢ってなんですか?

「すごくボヤーッとした言い方になってしまうんですけど、漫画とかアニメっていうものを通じて世界に日本の文化を伝えていけるような存在になりたいと思っていて。そういう意味で、芸能界、具体的にいうと2.5次元の舞台とかに興味があるんです」


—でも、意地悪な言い方をすると、別にそれって自分が表に出て行くような方法でやらなくてもいいわけじゃないですか? 今、自分がやってることに悩んだりします?

「うーん……。22歳にもなって、僕は何やってるんだろうなと、我に返って頭を抱えることも多々あるんですけど。でも、今の自分が間違っているとは思わないし、演じているという気はしないですね。コスプレも本当に楽しいし。どうしたらいいのか、わからないっていうのは普通の22歳としてあると思いますけど」


—そうですよね。

「例えば、僕を『いいね』って言ってくれる人がいても、自分はどうやってその期待に応えていいのかわからない。ファンになってくれる皆さんとも、どうお付き合いすれば正しいのかわからない。期待されたことにそのまんま従ってやっていればいいのか? 自分で自分の道を切り開いていくにしても、どんなアプローチが本当に正しいのか。今やっていることに関しても、自分は歌ったり踊ったりとか一般受けするエンターテインメントを観てる方に提供できるわけじゃないので……その辺りは悩みながらやってます」


—親御さんはなんて言ってるんですか?

「お母さんには応援はしてもらってるんですけど、あんまり賛成はしてもらえてないです……。すごく厳しいので叱られたこともあります。やっぱり学費は出してもらってるし、大学はちゃんと卒業しないとって思ってますね」


—形にする方法がわからないんだけど、成し遂げたい強い思いがあるっていうのは、副島くんの言葉からすごく感じますよ。

「やっぱりチェコでの経験が、すごく自分の中では大きいんですよね。チェコって高校生でも鬱になる人がすごく多くて。日照時間が少ない自然状況とか数十年前まで共産主義国だったっていうこともあって、ただ頑張るだけじゃ思い通りにうまくいかない社会なんです。そんななかで日本の文化を好きで憧れてくれている人たちがいて……自分は彼らに対して直接的に何にもできないんだけど、その『好き』とか『憧れる』っていう気持ちに応えたくて」


—その一歩としてのジュノン・スーパーボーイコンテストっていうことなんですね。

「そうです。なんか、寄り道ばっかりしちゃって直接的にはっきりと言えなくて申し訳ないんですけど」


—今日は、短い時間でしたが、そんなソエジマジカルが迷いながらも、道を着実に進み続けているという姿が見れてよかったです。今後もコンテスト続くと思うんですけど、応援してます。頑張ってくださいね。

「ありがとうございます。あんまりはっきりとしたこと言えなかったんですけど、お話できてよかったです。お互いにバニャバニャ頑張りましょう!」


—バニャバニャ!

*副島和樹(ソエジマジカル)の現在の情報は本人の公式Twitterを参照。現在(10月12日時点)、第29回ジュノン・スーパーボーイコンテスト敗者復活戦に出場中。10月17日までウェブから投票ができる。

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