2回目の引っ越しで捨てちゃえるモノが揃う店、SEE YOU SOON

特に時間も決まっていない昼休みが終わりに近づいてきた頃、小銭でジャラついた右ポケットからiPhoneを取り出して電話帳をスクロールする。ナオキ ヤマモトっと…プルルルルルル……あれ、繋がらない。リダイヤル……。 

「…もしもーし、おはよ〜」

お、出た! かなり眠そうな声が受話器から聞こえてきた。

「どうも! もしかして体調崩してる?」

「ううん、お昼ごはん食べた後に昼寝してたんだよ〜」 

「なるほど、これからそっち行こうかな―と! 大丈夫かな?」 

「うん、大丈夫だよ〜! 待ってるね〜!」

電話を切って自転車で走り出してから2、3分が経っただろうか、CFカードをカードリーダーに挿しっぱなしだったことを思い出してオフィスへと引き返した。その途中でオーストラリアから来ている友人に出くわし、変な味のガムをもらった。ベジマイトみたいな味がするこのガム野郎は一体どこ産なんや? やたらマズい……。なんて考えていたら目的地へと到着した。 


東京・富ヶ谷の奥地、閑静な住宅街に突如現れたこのイケてる場所は、SAYHELLOというグラフィックレーベルが運営しているSEE YOU SOONというショップだ。SAYHELLOのフラッグロゴがプリントされたTシャツを、洋服屋の店頭で一度は目にしたことはないだろうか?


そして、この人なくしてSAYHELLOは語れないと言っても過言ではないだろう。数々のアパレルブランドへグラフィックを提供する人気デザイナーであり、メンバー全員81年生まれのアーティスト・クリエイター集団“81 BASTARDS”にも所属しているペインター、YAMAMOTO “SAND” NAOKI氏だ。 


一この場所は何年目?

NAOKI(以下N)「2年弱かな〜、ここの物件が空いてて気になってたんだけど、借りるのもどうなのかなって思ってたんだよね。一応電話で聞いてみたら思ってたよりも安くてさ。俺らもお店をやりたいとは思ってなかったけど、この距離だったら何かやってみようかなって」

一なるほど、事務所から10秒で着くもんね。こんなに良い距離感はない。

N「スーツ着たおっさんが内見に来てて、こりゃあ絶対クリーニング屋になっちゃうなと思って、それは絶対嫌だ、じゃあ借りてみよう!と思って」



一いつオープンしてるの? 不定休?

N「集中する作業がないときは、カウンターとかで何かやりながら店番をしていて、(作業が)忙しいときは電話してねって張り紙をしてる」

一店をやるつもりじゃなかった割には、めっちゃ店だよね(笑)。

 N「まぁやるからにはね〜!」


店内にはSAYHELLOのアイテムはもちろん、スケートデッキや小物、店主がアーティストだけにアートブックや写真集、文房具や画材などが豊富に揃う。YOPPIこと江川芳文氏が手掛けるオンブレ・ニーニョ(HOMBRE NINO)やCHEAP TIMES、そしてNAOKI君が愛してやまないアディダスのシューズなどがところ狭しと並んでいる。


一店のイメージは? 

NAOKI「なんか、もうゴチャ混ぜが良いなぁと思って。皆アメリカっぽいって言うんだけど、実はヨーロッパのものも多いんだよね。無理してまでお店を運営するつもりがまったく無いから、僕らが出張とか、81BASTARDSの活動で海外に行ったときに買ってこれるような、身の丈にあったものを並べてる感じで。まわりにちゃんと洋服屋をやっている人がいるから、自分のところでバンバン売ったりとか、そういうちゃんとやっている人の邪魔をしないようにとは思ってる。お店なのか、溜まり場なのか、多分思ってくれてることを書いてくれれば間違いないと思うよ」 


 元気君(石川元気)とNYから遊びに来た友人が事務所から出てきた。 


一店の棚とかはやっぱり元気君が作ったの?

GENKI(以下G)「棚というか、全部作ったよ。天井抜いて、壁を立てて、備え付けのガラスの窓とかはハンマーでバーンと割ったりしてね。そこに什器を置いてるのよ」 

一この物件、もともとは何だったの?

G「もともと八百屋だったんだよね。だから道の方に向かって勾配があって、排水ができるようになってる。半分外みたいな感じだね」 


 一床の模様は最初から?

G「ううん、最初はチェッカーフラッグかな〜みたいに考えてて、直ちゃん(NAOKI)たちに相談したら最終的にこれが良い!っていう風に決めたんだよね」  

一そういえばSEE YOU SOONのWebサイトも同じ模様だった。元気君は、普段の仕事はこういうのが多い?

G「作るの3割、考えて図面描いたりデザインしたりっていうのが7割かな」

みんな何屋なんだか分からないな。そんなミステリアスな感じも嫌いじゃない。 平日の午後3時、店の前に広がる小道に鳴り響くスケートの音。たった1本のデッキに群がって大人たちがワイワイやっている。


暑いな……小銭を集金BOXにチャリンと入れて、クラシックな雰囲気が漂うガラス張りの冷蔵庫から6パックのパッケージを破いて、キンキンに冷えたジュース(ビール)を取り出す。とりあえず皆で乾杯。 


一ところで、商品のセレクトはどういう基準で決めてるの?

N「無理してバイイングしてないから、良い物が見つかって安そうだったら買ってきてっていう感じかな」 

店を運営するために買い付けるということではなく、欲しいモノをたまたま見つけたら買い物カゴに入れるという感覚だろうか。SEE YOU SOONという“ハコ(店)”に入れる“モノ(商品)”は、SAYHELLOクルーの趣味嗜好やマイブームなもの、気分で買ってみたものなど、ある意味偏ってはいるが、いわゆる“バイヤー”的な買い付けをしていない、ゆるいスタンスが他の店と一線を画している気がする。 今流行ってるコレを売りだそうとか、そういう商売気が微塵も感じられないお店も珍しいものだ。


ここでNOAKI君が印象的な言葉を放った。 「2回目の引っ越しで捨てて良いようなモノを集めようっていうのがこの店のコンセプトかな。良いモノは企業がやってるじゃん。企業がやってないことが良いなぁ〜と」 

SAYHELLOの事務所を間借りしているピーター(Peter Liedberg)が赤い自転車に乗って現れた。ピーターはLETTERBOYという名義でカリグラフィとハンドレタリングを生業としていて、ワークショップをSAYHELLOの事務所で開いたり、東京に住むようになってからはSAYHELLOのグラフィックもゲストワークで参加している。今日は注文していたスタンプが届いたようでニコニコしながら見せてくれた。うん、なかなかグッドなクオリティだね〜。


 最近見かけることが少なくなった豆腐屋の笛の音が、富ヶ谷の街に鳴り響いた。

一豆腐屋?

N「裏に八百屋とか魚屋とかがあって、ここで皆で飲んでるときにスケボーで漬物とか刺身を買いに行って、店の前でつついたりしてるね」  

どうやら、ここでは時に宴が繰り広げられているらしい。最高だ。


N「俺らは皆、出来るだけコンビニでモノを買わないようにしてて」

一コンビニが嫌い?

N「俺はあんまり買わないね。どこも一緒じゃん? クリエイティブな気持ちが削がれるようで嫌なんだよね。何も考えなくなるというか。 お酒は除いて、1年間で3万円も使わないね」


これはなかなか衝撃的かつ妙にしっくりとくる意見だった。コンビニはどこへ行っても品揃えは五十歩百歩で、店員との会話といったら、「温めるか? 箸はいるか? レシートはいるか?」といった機械的なコミュニケーションだけで見事完結してしまう。クソつまらねえ! 年々減少している個人商店で元気に個性を爆発させている店主の方が何倍も面白いじゃないか! どうでもいい天気の話だってしたいし、昨日も一昨日も聞かされた話に、まるで今初めて聞きました!と言わんばかりのリアクションをしてしまうボケvsボケ対決をするのも嫌いじゃない。個人商店はひさびさに立ち寄ってみると、寄席に近い感覚に浸れる場合が多々ある。君の住む街の商店街にも、きっとディグれば名物店主がいるはずだ。

と、話はそれてしまったが、こんなことを考えている間にスター・ウォーズに登場する人気キャラクター、チューバッカのような出で立ちをした犬が通り過ぎていく。 どうやらここの3階に大家さんが住んでいるらしいのだが、店の前でスケボーをやったりと騒がしかったりするのは大丈夫なのだろうか?

N「無許可でシャッターに描いた時は流石に怒られるかなと思ったんだけど、『あら綺麗になったわね』って」

G「だいぶ寛大な大家さんだよね」 


 ガシャーン! 灰皿が倒れて吸い殻が全部散らばった。うん、いいよいいよ〜。 

一そういえば、"SAYHELLO"もそうだけど"SEE YOUS SOON"って名前は、英語の挨拶縛りみたいなものがあるの?

N「ナントカ カントカ ナントカって難しい名前よりも、パッと思いつくような感じが良くてSAYHELLOってつけたのね。それでこの場所もSAYHELLO STOREは絶対ダサいから違う感じにしたくて、身近な言葉を選んだんだ」


N「あとは、店の奥の壁に直接描けるっていうのは友達にとっても俺にとっても練習になる。グラフィティは81 BASTARDSの皆も通ってきててるから、そうじゃないペインティングの方法を追求したいところではある。だからあの壁は重要なんだ」 

このスペースは誰でも使うことができる。問い合わせればプライスリストを送ってくれるから、これこれこういう企画をやりたいんだっていう想いを持って相談してみてほしい。僕もそろそろここで面白い企画を仕掛けたいと思ってる。

N「俺らがガキの頃はこういう場所っていっぱいあったんだけどね。世代の架け橋みたいになってくれたらうれしいな。この場所が無かったらこうやって集まってハングアウトすることも無いしね。たまに子供連れの親とかが、『あそこ行っちゃ駄目!』とか言ってるけど、あー分かる分かる、みたいな(笑)」 


N「あと、初めてお店に来た人が、『ここ何屋さんですか?』っていう疑問を投げてきたのね。でもそれって正解というか」 

 一少しミステリアスで、パッと見てもよく分からない感じが良いよね。

もうここに来て何時間経ったのか分からなくなってきた。外のベンチに座っている皆はいつの間にかマルボロのパッケージに隠されたメッセージについて熱く語り合っていた。今日ここに来た理由が、そういえば取材だったことを思い出す。正直なところ、こんなにゆるい取材は初めてだったけど、それがこの場所と皆の人柄がそうさせるのだろう。また来るよ、SEE YOU SOON!

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